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「衣通姫(そとおりひめ)」

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 軽太子(かるのひつぎのみこ)軽大郎女 (おおいらつめ)に奸(たは)く。この 故にその太子を伊予の湯に流す。この時 に衣通王(そとおりのおおきみ)、恋慕 (しの)ひ堪(あ)へずして追い往(ゆ) くときに、歌ひて曰く 「君が行く日(け) 長くなりぬ  やまたづの  迎かへを行かむ 待つには待たじ          軽大郎女 」  第十九代允恭天皇の皇太子木梨軽皇子 (きなしかるのみこ)は容貌佳麗 (かたちきらきら)しかったが、 同母妹(いろも)で艶妙(かほよ)しの 軽大娘皇女(かるのおおいらつめの ひめみこ)と親々相奸(はらからどちたは) けたるゆえ、伊予の湯(道後温泉)に 流された。 この歌はまた、磐姫皇后(いわのひめの おおきみ)が、仁徳天皇を想って詠ったとも 言われている。 「君が行き日 長くなりぬ 山尋ね   迎えか行かむ 待ちにか待たむ           磐姫皇后 」  軽大郎女は、身体の美しさが、 衣を通して表れることから、衣通姫 と呼ばれた。 「その身の光、衣より通り出づればなり」              古事記 「その艶(にほ)へる色は、衣を徹(とほ)  りて晃(て)れり」             日本書紀 小石川植物園 ソメイヨシノ衣通姫       

「人間をつくる」

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  「人間をつくると言うこと以外のところに、  人間としての仕事はないということ」  白洲正子(一九四八年)   「たしなみについて」   人間をつくる 自らの人間をつくり 伴侶の人間をつくり  子供の人間をつくり そうして 自分の 身の回りの人間をつくる だが 我々凡人には 自分以外の  人間をつくることは 多分 不可能であろう ならば 為すことは ただひとつ 自分の人間を つくること そうなのだろう 人間は 何年もかかって  このことに気づくのだ しかも ほとんど  人生の 終わりに近づいた頃に しかし 白洲正子は  これに四十歳少し前に 気づいた これが 彼女が 六十歳以降に  大きく 花開いた その根本とも いえよう われらも これを真似び 倣い  白洲正子に 導かれて 歩もう

「鬼 女」

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  「この樹登らば      鬼女となるべし      夕紅葉     三橋 鷹女  」 夕陽は 西山に沈みかけ 深紅の紅葉は まさに  燃えんとする色 わたしの こころも からだも 夕陽と 夕紅葉に 染められて ああ 今なら なれるだろう 日常的な すべてを 捨て去り わたしの うちなる  烈しい 魂(たま)そのものに この樹に 登れば あの 戸隠山の  紅葉姫のように 鬼女に  戸隠山の鏡池

「旧大臣家の権力奪還」

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「故大納言の遺志で、桐壺更衣は後宮に入り、桐壺帝も左右の大臣家からの縛り付けに対する抵抗として、桐壺更衣を寵愛したのではないか」                 秋山 虔 桐壺の更衣と明石の入道はいとこ同士である。 明石の入道の父親が大臣で、桐壺更衣の父親が大納言。 この両家のもととなるのは故大納言の旧大臣家で、現在の左右の大臣家の以前に栄えた旧大臣家という設定である。 その旧大臣家の権力奪還の物語が、「源氏物語」の前編とも言えようか。 まず桐壺の更衣が死を賭して光源氏を産み、又いとこ同士の明石の上と交わって、明石の姫君を作って、今生帝に入内させる。 旧大臣家の権力奪還は、これにより成し遂げられたのである。   明石の中宮

「ふらここ」

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  「秋千や 桜の花を 持ちながら             小林一茶 」 ぶらんこはふらこことも呼ばれ 漢字では鞦韆とも秋千とも書くようである その起源はギリシャにあるらしく アレキサンダー大王の東征と共に 中国にも渡った 蘇東坡の詩「鞦韆院落夜沈沈」 ヨーロッパではローマを経て 十八世紀のロココ派 ワット-やフラゴナールの絵に 有名である フラゴナール 「鞦韆」

「シャイニング・プリンス」

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 「物思ふに立ち舞ふべくもあらぬ身の    袖うちふりし心知りきや」        光源氏        藤壺の宮への和歌   光源氏は英文では Shining Prince というそうである。 Translated by Ivan Morris.   「光るの君」と呼ぶときと   「 SHINING PRINCE 」の響きの違い。   「光る」には、ただ単に光り輝く以上の  崇高な神的なニュアンスもあるが、   「 SHINING 」となると   ただ光り輝いているというイメージ    になってしまうのは、    こちらの語学力の問題なのであろうか。 源氏物語 柏木

「忘るなよ」

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  「忘るなよ 藪の中なる 梅の花              芭蕉 」    忘れ去られたかのように    藪の中で ひっそりと咲く    白梅の 密やかさ    目立たない その梅の花の    爽やかさと 薫香のごとき香り    ひとり静かに 矜持心を持って