「木の下隠り」
秋山の 木の下隠り 逝く水の われこそ益さめ 御思よりは 鏡 王女 あの 貴いお方を 慕いながら わたくしは 錦繍の秋の山に ひとり 踏み分けて 入ります 清冽な小川が 金色と茜色に染まった 紅葉の下を 流れ逝きます わたくしの あのお方への 想いも 木の下の流れのように 表に現れなくとも しめやかに 流れてゆきます それは あの方の わたくしへの み想いよりは さらに いや増して 溢れんばかりの 情愛を湛えて あのお方にだけ 注ぎこんでゆく流れです あの 中大兄の皇子さま にだけ 嵯峨野・宝篋院