「二人行けど」

「二人行けど 行き過ぎがたき 秋山を

        いかにか君が 独り越ゆらむ」

        大伯皇女(おおくのひめみこ) 
        万葉集 105


 はるばると この伊勢の斎宮まで

 わたくしを 訪(おとの)うてくれた

 弟背(いろせ)

 今朝は 大倭(やまと)へと 

 一人 旅立つ

 鈴鹿峠あたりは 

 秋色あざやかであろうが

 二人で 越えるのさへ 寂しいのに

 弟背は おひとりで 秋山をゆく

 その向こうの 大倭に

 待つものを 知りながら

 父 大海人(おおあま)の

 王(おおきみ)が 

 ご存命であれば

 こうしたことには 

 ならなかったであろうに

 大王 大海人の ご信任篤く

 「状貌魁梧、器宇峻遠」

 「詩賦の興り、大津より始れり」

 とまで いわれた弟背

 だが 叔母 

 鵜野讃良皇后(うののささらの

 おおきさき)は

 草壁皇子(くさかべのみこ) 

 擁立のため

 弟背 大津皇子を

 なきものにせん としている

 ああ 今生のわかれ

 弟背に ふたたび

 見(まみ)えることは 

 もう かなわぬ夢

二上山の夕景



 

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