「小夜の中山」

 「年たけて また越ゆべしと 思ひきや


 命なりけり 小夜の中山

   西行 新古今和歌集 九八七 」


ここは 掛川 小夜の中山

東海道中の 難所のひとつ

そして 歌枕の地

ここを越えれば 異郷の地 吾妻の国

振り返れば 四十年振りなのだ

この 小夜の中山を 越すのは

鳥羽院にお仕えした 北面の武士の頃

中宮 待賢門院璋子さまの 

みめ麗しきお姿

出家と 陸奥・出羽への行脚

中宮さまの 法金剛院での お隠れ

高野山での きびしき修験道

中宮さまの御子 崇徳院の 

 おいたわしい最期

讃岐の国 善通寺での 慰霊
     

思えば はるけくも 

 この無常の世の中を

歩んで きたものだ

毎春の 桜花を たよりとして

そうして 七十路のこの歳で

東大寺の 重源殿の頼みで

大仏再建のため 東国へ 

 砂金勧請の旅


ああ こうして もう一度

この小夜の中山の地を 踏もうとは

変わらぬ 山並みと 

はるかなる 東の国

この与えられた 余命を 

尽くそう


私の命を この天地と 同化させて

残りの道を 歩むのだ

小夜の中山 夜泣石


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