<「夢」の歌と「命」の歌>

<「夢」の歌>

「夢よりもはかなきものは夏の夜の あかつきがたのわかれなりけり」

                     壬生忠岑


「逢ふと見てうつつに甲斐はなけれども はかなき夢ぞ命なりける」


                     藤原家隆
                            
 忠岑の歌は、恋しい人と一夜を共にした後の後朝の別れを詠い、家隆の歌は、禁じられた恋の思い人に逢うことの出来ない哀しみを詠いながらも、今は夢で逢うことが命であるという悲恋を詠じています。


 共に「夢」と「はかなき」の言葉を使っているのも、興趣があります。

<「命」の歌>

「逢ふと見てうつつに甲斐はなけれども はかなき夢ぞ命なりける」


                      藤原家隆
                                    
「年長けてまた越ゆべしと思ひきや 小夜の中山命なりけり」


                       西行

                                  禁じられた恋に命を賭けている家隆の歌と、生きてきたこの歳月をしみじみと噛み締めている西行の歌。共に「命なりける(り)」の言葉が、歌の中核となって読む人の心を打ちます。

 定家に比べればやや地味ながら、清冽な歌を詠んだ家隆の歌が、上にあげた「夢」と「命」の「歌の掛け橋」となっていることが、とても面白いと感じています。

 この西行の歌を本歌取りした芭蕉の俳句は、次の通りです。

「命二ツ 中に活きたる 桜哉」

高遠城の子彼岸桜

 

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