「かのことは」

 「かのことは夢幻(ゆめまぼろし)か秋の蝶


             鈴木 真砂女 」


     秋の蝶が ふうわりと 庭先を 

     夕陽の方へと 飛んでゆく

     あの人と 一緒に 蝶を見たのは

     嵐山の 大河内山荘

     紅色の毛氈で 薄茶を 喫していた 

     そのとき

     蝶が 一片(ひとひら)

     夕暮れ迫る 京洛の町並みのほうへと

     風に 吹かれるように 浮遊していった

     ああ あの人と わたしのことは

     あれほどの 熱い想いで

     あったのに

     あのときの ふたりは

     いま いずこ

     夢 幻 よりも はかなく

     わたしの 秋の季節も

     この 秋の蝶のように

     ふうわりと そして ゆっくりと 

     暮れて ゆくのだろう

大河内山荘 四阿


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