「はかなさを   待賢門院堀河」

     「はかなさをわが身のうへによそふれば

       たもとにかかる秋の夕露

             待賢門院堀河  」

      
      この 御室の里にも 

      周山街道を伝って 

         秋がしめやかに 降りてくる

        寂しさも 一入(ひとしお)の 

   その夕べに

   花園の 五位山よりの 使い 

      待賢門院さまが お隠れに

      花の 匂うが如く お美しい

   璋子中宮さま

   宮居や 鳥羽離宮での 

   華やかな 宴の かずかず     

   そのお姿が 庭もとの

      萩に落ちた 夕露のごとく

      はかなくなって しまわれたとは

      夫も亡く 我が子も手放し

      待賢門院さまのみが 

   よすがであったのに

   夕露も わたくしの 

   涙のように

   葉の先から 

   ひとしずく 

           落ちてゆく

           そして この袂も 

   しとどに 濡れて


     < 御室の里 = 仁和寺

      花園の五位山 = 法金剛院 >

  -------

  「 申上げたことはありません

    袂にかかる露の冷さなどは

    秋草模様の小袖にはいつも

    涙の玉の散りかかるばかり

    はかない思ひはきのふから

    明日に続いてまた繰り返す

    ほろびの日を懼れるなどと

    あなたには申上げますまい 」

       塚本邦雄 「王朝百首」 276


  *注)畏れ多くも、塚本邦雄作品と、

      愚作を並べてしまいました。


嵯峨野 宝筐院

 

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